かかりつけの歯医者さんって必要ですか? -こども世代編-
「口腔機能管理」からわかる子どもの成長を見守る大切さ
顎の成長には個人差があり数年単位でゆっくり進みます。乳歯の頃からの経過観察が将来の歯並びや噛み合わせの土台になる理由と、2018年に保険適用となった「口腔機能管理」の背景を、最新の研究データや保護者への意識調査の結果もあわせて、やさしく解説します。
「小児の口腔機能管理」が保険で受けられるようになった背景
「口腔機能管理」という言葉を聞き慣れない保護者の方も多いかもしれません。これは2018年度(平成30年度)に新設された考え方で、お口周りの機能に十分な成熟が見られない状態を「口腔機能発達不全症」といい、保険診療の中で成長を促すトレーニングを受けられるようになりました。
制度が新設された背景には、次のような考え方があります。
- 口呼吸や舌の位置、飲み込み方の癖などが、将来の歯並びや噛み合わせに影響することが分かってきた
- こうした癖を早期に見つけて整えることが、大人になってからのお口や全身の健康にもつながると考えられている
- 対象年齢は当初15歳未満でしたが、その後18歳未満まで拡大され、より長い期間サポートできるようになった
具体的には、次のような様子が見られる場合に、機能面のチェックの対象となることがあります。
- 「お口ポカン」などお口がいつも開いている、口呼吸が多い
- 食べ物をうまく噛めていない、噛む音が気になる
- 発音がはっきりしない
- 舌を出す癖や、指しゃぶりが続いている
一つひとつは些細に見えることも多いのですが、積み重なることで顎の発育や歯並びに影響を与えることがあります。だからこそ、早い段階から定期的にチェックしていくことが重要なのです。
実は身近な「口腔機能発達不全症」
最新の研究でわかった実態
「うちの子には関係ない」と思われるかもしれませんが、口腔機能発達不全症は決して珍しいものではありません。2026年に発表されたある研究では、約4人に1人が口腔機能発達不全症に該当した横断的な調査であるため、硬い物を食べれば必ず改善するという因果関係まで示したものではない点には注意が必要です。
保護者の気づきにくさ
実際にお子さんを見ている保護者の側では、こうした症状に気づきにくいという課題もあります。ある意識調査では、3〜12歳の子を持つ保護者400名のうち、約5人に1人が自分の子どもに「お口ポカン」や「いびき」の症状があると回答があり、前述の研究結果(4人に1人が口腔機能発達不全であった)よりも少ないため、日常の観察だけでは確認し難いものと思われます。


むし歯予防に比べて口腔機能への関心はまだ十分に広がっていないのが実情です。だからこそ、定期検診の場でお口の機能もあわせてチェックしていくことに意味があります。
顎の成長がゆっくり進む理由と、こまめな観察が必要な理由
成長のタイミングには個人差がある
お子さんの顎は、乳歯だけの時期(乳歯列期)から、乳歯と永久歯が混ざり合う時期(混合歯列期)を経て、永久歯列へと変化していきます。この過程は数年がかりで進み、皆さんの成長期が違うように成長のスピードやタイミングにも個人差があります。そのため、一度の検診だけで将来の歯並びを判断することは難しく、継続的に様子を見ていくことが欠かせません。
成長のピークを活かせるかどうかで治療の選択肢が変わる
顎の成長期には、骨がまだ柔らかく変化しやすいという特徴があります。この時期を活かして早めに対応できると、永久歯が生えそろってから大がかりな矯正治療が必要になるケースを減らせる可能性があります。逆に、成長のピークを過ぎてから気づいた場合は、選べる治療の幅が狭まってしまうこともあります。
歯の生え方や日常の癖が顎の発育に影響する
歯の生えている場所や、指しゃぶり・頬杖、・呼吸といった日常の癖は、続く期間や強さによって歯並びや顎の発育に影響を与えることがあります。例えば、上下反対に噛み合う歯は顎の成長を阻害したりてしまいます。また、上手く飲み込めない等の癖は歯の位置を動かしてしまったりひどい場合は顎の成長にも影響が出ることもあります。
単に「歯並びがきれいかどうか」を確認するだけではなく、呼吸や飲み込み、姿勢といった全身とのつながりも含めて確認することで、今後お子さんのお口が望ましい成長をしていくか長い目で見ていくことでもあります。だからこそ、決まった間隔で継続的にチェックしていくことに意味があるのです。
ご家庭でできること・経過観察の流れ
- 歯科医院で定期検診のたびに噛み合わせや顎の発育をチェックする
- 「お口ポカン」や指しゃぶりなどの癖、些細に見える様子も遠慮なく相談する
- 硬さのある食事も取り入れながら、噛む力を育てる
- 必要に応じて口腔機能の検査を行い、生活習慣のアドバイスを受ける
- 成長の様子を見ながら矯正治療が必要かどうか担当医と相談する
よくある質問
Q. 何歳頃から矯正の相談に行けばよいですか?
A. 明確な決まりはありませんが、6〜9歳頃の変化が大きい時期に子供の矯正を行うことが多いです。定期的に当院にお通いであれば望ましい時期が来そうになる段階でご相談することが可能です。
Q. 口腔機能管理と矯正治療はどう違うのですか?
A. 口腔機能管理は、噛む・飲み込む・呼吸するといったお口の機能面(筋肉の動かし方や強さ等)の発達を確認し整えていくものです。矯正治療は歯並びや噛み合わせそのものを整える治療です。良好な口腔機能を獲得すると、矯正治療後に良好な結果やすくなります。
Q. 保険で受けられる範囲はどこまでですか?
A. 口腔機能発達不全症の診断基準に該当する場合の管理や指導は保険診療の対象となります。基本的に矯正治療そのものは自費診療のご案内となりますので、詳しくは診療時にご確認ください。
Q. 指しゃぶりなどの癖はどう直せばよいですか?
A. 3歳頃までは自然な発達の一部です。4歳以降からは徐々に辞めていくことを目指しましょう。しかし、無理にやめさせようとすると別のストレスにつながることもあるため、まずは検診の際にご相談いただくことをおすすめします。
出典
厚生労働省「平成30年度診療報酬改定の概要(歯科)」
日本歯科医学会「『口腔機能発達不全症』に関する基本的な考え方」(平成30年3月)
東京科学大学・株式会社ロッテ中央研究所 Journal of Oral Rehabilitation(2026年5月掲載、DOI: 10.1111/joor.70213)
株式会社ロッテ「子どもの口腔機能発達に関する意識調査」